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会員コラム

映画鑑賞

斉藤道俊法律事務所 佐々木 しゅり

15か16歳のころだったと思うが,「フィラデルフィア」という映画を観た。
この時,続けて2回観た。その後,数年たってまた観たと思う。
主演はトム・ハンクスとデンゼル・ワシントン,2人の役はどちらも,弁護士である。
大手法律事務所に勤める弁護士であるアンディ(ハンクス)が,HIVを発症したことをきっかけとして,同性愛者であることを職場に知られ,その直後,解雇される。
事務所側は仕事上のミスや能力不足が解雇理由であると主張するが,同性愛者やHIV患者に対する不当な差別による解雇であることは,観客から観ても明らかである(そのように映画が作られている)。アンディは損害賠償と地位の保全を求め,事務所に対し訴訟を提起することを決意する。
ところが,代理人が決まらない。たずねる弁護士に,ことごとく断られる。そして,かつて相手方として喧々諤々やりあった弁護士ミラー(ワシントン)のもとを訪れる。確か,これで10人目だったと思うが,ミラーも断るのである。最初は。彼にも,同性愛に対する偏見やHIVに対する過剰な恐怖があったからだ。
それでも強気の微笑みを崩さないアンディが,ミラーの事務所を出た直後に見せる表情が,私にとって,今まで見たトム・ハンクスの演技の中で最高のものだ。その後,彼の出演映画は何本も観たが,ここが一番いい。雑踏の中で立ち尽くしている。社会から放り出され,傷つき,孤独感と絶望と病への恐怖に潰されそうになりながらも,必死で次の手を考えている。なぜ彼のために戦わないのか,こういうのが弁護士の仕事なんじゃないのか,15か16歳の私は不思議に思ったものだ。
ともあれ,色々あって,ミラーはその後アンディの代理人となる。偏見や恐怖心が完全に消え去ったわけではない。同情したから,でもないだろう。そうか,やっぱり弁護士だからだ,こういうのが弁護士の仕事だからなんだな,と15か16歳の私は単純に思ったものだ。
(より多くの方々にこの映画を観ていただくために,さらに詳細を端折るとして)それからの日々,アンディとミラーは,法廷でも,街中のスーパーでも,容赦ない偏見と嘲笑の中で,戦って戦って戦い抜き,15か16歳の私は手に汗握って画面にかじりつき,弁護士ってすごいなあ,と感動し,ラストでしっかり泣いたのである。
当時の私は,医者になりたいと思っていたので,この映画を観て弁護士になりたいと思うことはなかったのだが,この映画は,それから何年も,私の1番好きな映画となった。
そして,17歳のころ進路転換を考え,法曹の道を漠然と意識したとき,真っ先に頭に浮かんだのは,この映画の2人の姿だった。我ながら単純だと当時も思ったが,結局,半分はこのイメージに引きずられて法学部志望を決めた。
さらに,司法修習も中盤に差し掛かったころ,なぜか検察官志望になっていた私が,やっぱり弁護士になろうかなと考え始めたとき,やはりあの2人の姿がチラついたのだった。弁護士についてそれなりに知識を得て,現実的なイメージを持つようになっていた私は,さすがに自分のミーハーさ加減にうんざりしたが,結局,またしても半分はあの2人に引きずられて弁護士になってしまったように思う。