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  VOICE   No.4  

平成14年2月

「新しい教育」がはじまりますが…


 2002年度から、小中学校の指導内容が大きく変わります。改正のポイントをまとめると、

  1. 授業時間の年間70単位時間=約1割を削減する。
  2. 教育内容を約3割削減して、教育内容の厳選をはかる。
  3. 小学校3年生以上のすべての学年に「総合的な学習の時間」を設け、問題解決的・探求的な学習を推進する。
  4. 小学校高学年から選択学習を導入し、また習熟度別の学級編成やチーム・ティーチングなど指導方法の弾力的運用をはかる。

以上のような提言を具体化したものです。

また、学校5日制が導入されます。この制度の導入をめぐっては、教育現場でさまざまな議論がおこりました。非行に走りはしないか?塾通いに拍車がかかって子どもの受験競争があおられはしないか?土曜日の授業を他の曜日に移して消化すれば、子どもたちに時間的ゆとりがなくなり、教員の労働強化を招くものだという教員間の意見も高まったそうです。一方、私立学校では、5日制実施指導を受け入れていないところが多く、私立学校指向の受験競争が強まる可能性が高まっています。




学力低下は止まるのか?


 以上、新指導要領を客観的にまとめてみましたが、では、核心部分です。新指導要領の導入によって、文部科学省がいうように、本当に全員が満点を取るようになり、学力低下は止まるのか?

答えはノー、私は、それは絶対にあり得ないと断言します…。そもそも、今の小中学生は、勉強について、とても楽をしているはずです。ご父母のみなさまや私の世代から見れば、勉強する内容は大幅に削減され、土曜日は隔週で休み!6時間や7時間授業がない!午前授業がやたらに多い!家で勉強をする時間は、たっぷりとあるはずなのですが…。ぶっちゃけた話、私は「ガキにゆとりを与えてどうすんの?」「遊ぶに決まってるべ!」そう思います。(ことばが悪くてすみません)

受験地獄とさえ形容された、熾烈なまでの受験競争の中で、成績弱者、いわゆる「落ちこぼれ」が大量に出てしまい、その反省から、今の「ゆとり教育」がうまれたわけですが…。やさしい内容で、試験も簡単になれば、みんなが良い点数を取れるかもしれませんが、それは同時に、全体を低学力にそろえることを意味します。

では、昔の「落ちこぼれ」のレベルは、今のどのレベルなのか?明確な数字やデータはありませんが、昔の「落ちこぼれ」のレベルは、現在では普通レベルといえそうです。驚かれる方もいらっしゃると思いますが、これが現在の子どもたちの学力の現実なのです。例えば、ご父母のみなさまが中学生のころ、定期試験で数学が30点であったなら、その生徒は5段階評価でどう評価されたでしょうか?よほど平均点が低くない限り、まず1か2になったはずとお思いになりますよね?ところが、今はどうかといいますと…。学校にもよりますが、それで3がつく場合も多いのです。(本当ですよ!)ちなみに試験の内容は、ごく簡単なもので、昔であれば平均70点以上はいくだろう。そう思われる試験でです。

私の担当教科は社会科ですが、ご父母のみなさまは、小学生のころに、年号を覚えた(覚えさせられた)ことと思います。710年(なんと大きな平城京)、794年(鳴くようぐいす平安京)、1192年(いい国つくろう鎌倉幕府)、これらのほかの年号も覚えたご記憶があることと思います。ところが…、昔なら知らない方が珍しかったこの年号を、今の小学生の多くは知りません。事実、歴史の学習において、年号を覚えることを指示する先生は、中学校でもごく少数なのです。

「羹(あつもの)に懲(こ)りて膾(なます)をふく」(一度失敗したことに懲りて用心しすぎるたとえ)といいますが、現在の子どもたちに与えられている学習内容はまさにそう、過度の受験競争の反動から、必要以上に学習内容を削減してしまったわけです。




昔はこんな感じでしたよね


 生徒から学校の様子を聞くと、学習内容のみならず、昔と今の学校教育のギャップを大きく感じます。私は小学生の頃、よく廊下に立たされました。時にはバケツを持たされもしました(笑)が、そんな話は今は聞きません。竹の棒を持った先生に、答えることができないと、ビシッと叩かれたり、授業態度が悪いとチョークが飛んできたりしたものでした!

授業中に騒いでも怒らない先生がたまにいて、その先生の授業の時だけは、妙に教室が騒がしかったりしたものですが(反省)、今は、どの先生の授業でも、ほぼそのような状態とか…。給食に嫌いなものが入っていて、それを食べられずにいると、食べるまで残された生徒がいたり(いましたよね?でもあれは、○○アレルギーの生徒もいるわけですから、やりすぎだったのかも知れませんね)、先生の中に、特に恐い先生がいて、その先生の前ではみんな妙に素直だったり…。

私の記憶では、学校ではとにかく先生が生徒を「叱る」ことが多かったものですが、残念ながら、最近は生徒から「叱る」先生の話を聞くことは稀です。昔は、良くも悪くも個性的な先生が多かったような気がします。




嫌いな学校の先生の思い出


 もう三十年近い昔の話です。ある日、当時小学校1年生だった私のクラスに、隣のクラスの担任の先生が入ってきて、いきなり黒板に「自習」と書き、演説をはじめました。

「今日は、先生方はストライキをします。ストライキというのは、働いている人が、給料を上げて欲しいから、仕事をしないで、給料を上げるように、要求することをいいます。先生たちは労働者ですから、ストライキをする権利があるのです…」そんな話を、年端のいかない子どもたちに、延々としたものでした。

私はその女教師が嫌いでした。虫の居所が悪いとすぐに怒るし、自分が嫌いな父母の子どもに対しては、とても冷たい。そんな先生でしたから、子ども心に、「この人の言っていることは間違っている…」そう強く思ったことを覚えています。また、別のストライキの時に彼女は、教室に○○党(お分かりですね!)の候補者のポスターを持参して、「家に帰ったら、お父さんお母さんに、この人に投票するように言いなさい」と命令したこともありました。当時は、組合運動がさかんで、今にして思えば、よくあんなことが許されたものだと思います。(苦笑)




大好きな学校の先生の思い出


 一方、私が大好きだった学校の先生は、スト破りの常習犯でした!(爆)私が中学生の時も、相変わらず組合運動はさかんだったようで、やはりたまにストライキがあったものでした。しかし、私の大好きなF先生は、ストライキ中に、さっそうと教科書を持って教室に現れ、「授業やるよ!」と堂々とスト破りを…!中学生の我々には、ストライキで授業がない方がありがたかったのですが、今にして思えば、本当にカッコイイじゃありませんか!

「先生、今日ストライキじゃないんですか?」「あのね、学校の先生には、ストライキをする権利は認められていないんだよ。ストライキをやっている先生、あんなやつらはみんな馬鹿だっ!」痛快ですね!(笑)他の先生は、授業中に生徒からF先生の話題が出ると「F先生ねぇ…」と煙たがっていたようでした。

そんな、一匹狼のF先生ですが、かといって校長の側についていたわけでもなく、校長や教育委員会とも、ずいぶん喧嘩をしていたようです。曲がったことが嫌いな先生でした。私も何度か「厳しく」指導をして頂きました。(笑)私の公教育への反骨精神は、大好きなF先生から引き継いだものかも知れません!F先生は、もう現役を退かれている年齢かと思いますが、今の公教育をどのように感じていらっしゃるのか?ぜひ一度お会いして、教えを請いたいものです。




講師雑感4 〜OさんとSさんの話〜


 私がかつて勤務していた学習塾での話です。入会したばかりの、中三生のOさんとSさんがいました。成績は二人ともクラスの下の方で、数学が特に苦手な生徒でした。

数学担当の講師は、「箸にも棒にもかからない…」とさじを投げてしまい、こともあろうに、それを彼女たちに言ってしまいました。ある補習授業のときに教室へ行くと、よほど悔しかったのか、二人は目に涙を溜めて、そう言われたことを私に訴えてきました。「数学は、やるだけムダだ」そうも言われたそうです。「じゃぁ、合格して見返してやりな。でも今のままでは合格は遠いぞ。合計100点取らなきゃ受からないんだから」「数学が0点でも、他の教科で取ればいい。じゃぁ社会科で50点を取るぞ!」ということで、彼女たちとの特訓がはじまりました。

正直、私も「最後まで続くかな…」と思ったのですが、二人は本当によくがんばり、見事志望校に合格しました。社会科は、Oさんが52点Sさんが48点で、二人とも合計が100点前後だったと記憶しています。数学はといいますと、二人とも壊滅、0点とか2点とかの点数でした。

さて、卒業後、Oさんが、塾に私を訪ねて来てくれたことがあるのですが、「先生、数学わかる?教えて欲しい所があるんだけど」「わかるかな?どれどれ…」見ると、高校数学の三角関数でした。ノートを見ると、どの問題もしっかりとできています。「おぉ昌子、やるなぁ!すごいねぇ」話を聞くと、数学の講師に言われたことが悔しくて、入学後、中学数学から必死に勉強したそうです。正負の計算ができないと、見捨てられた生徒が…。塾生のみんな、「がんばる」っていうのは、こういうことをいうんだよ。どうだい、がんばっているかい?