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平成17年12月
小学校終了時点で、「ことば」を知っている子と知らない子とでは、驚くほど差があるものです。つまりは「語彙力」ですが、文章を書かせても、自分のことばで物事を説明させても、実に大きな差があります。この点を指摘する人は少ないのですが、言葉の表現力が豊かな子とそうではない子の語彙力は、一般に考えられている以上に差があるはずです。 知識量と学力は必ずしも比例するものではありませんが、語彙力があまりにも貧困だと、文章を読んで理解すること・話を聞いて理解することが難しくなります。「文章の意味がまったくわからない」「話の内容が理解できない」「問題文が何を聞いているのかがわからない」中学生でこうなると教える側もお手上げです。今回はその原因を考えてみたいと思います。
私、学習塾講師になった時から生徒に言い続けているのですが、「小4の国語力があれば、中学校の社会科の定期テストは、だれでも80点以上を取れる!」ものなんです。(自動車免許の学科試験って、やれば誰でも合格できますよね。実は中学校の社会科の定期試験の1回分は、あの学科試験と同じくらいの量とレベルなんです) しかし、語彙力が極端に劣る中学生、具体的には小4の国語力が身についていない中学生の場合は、手の打ちようがありません。どの教科も(計算部分を除いて)ほぼアウトです。少し前までは、その手の中学生は本当に少ないものでした。学年に1人いるかどうかでした。ところが、最近はとても増えてきました。某中学校なら、確実にクラスに3・4人はいるだろう…。そういった状況なんです。 語彙力があまりに低いと、読み・書きに大きな支障が出てきます。問題文を読んでも理解できない原因は、この点に帰着します。高校入試の問題であっても、問題文が何を尋ねているのかは小4生であっても十分に分かるはずです。ところが、それがわからない(設問自体が理解できない)中3生が現実にいるんです。読み・書き・計算の「読み」ができていないためにおこる現象です。
その手の中学生は、まず間違いなく辞書を引いた経験・参考書を使った経験がゼロに等しいものです。「辞書を引いて調べる」という習慣がないので、わからない言葉をそのままにしてしまい、それが積み重なり国語力が大きく劣ってしまった。そうなると、「文章を理解できない」「問題文が何を要求しているのかがわからない」という状態に陥ってしまいます。 そういう生徒の場合、学習指導云々の前にまずは辞書の引き方から指導して、なぜそれが重要なのかを理解してもらわなければなりません。わからない言葉が出てきたなら、そのままにしないで辞書を引いて確認すること。至極あたり前のことですが、辞書を引いた経験がほとんどない中学生が想像以上に多いものなのです。国語力が大きく劣る原因はここにあります。
中学生で、学年トップの生徒と平均レベルの生徒の「勉強時間」をくらべると、2〜3倍の差があるはずです。同じく、「問題を解くスピード」についても、2〜3倍の差があります。仮に2倍のスピードで2倍の量の問題を解いたとすると、単純に計算して学年トップの生徒は、平均レベルの生徒の4倍の量の問題を消化していることになります。 同様に平均レベルの生徒と下位の生徒の問題の消化量を4倍とすると、学年トップと下位とでは16倍の差があることになります。(単純にざっくりと計算してみましたが、家でまったく勉強しない生徒も多いので、実際にはもっと差があるはずです)スポーツでも自分の16倍の練習をしている人間と勝負したなら、これはもう勝ち目がありませんよね!勉強についても同じことが言えます。
勉強の内容が徐々に難しくなる小学校4年生あたりから、子どもたちの学力差が大きくなりはじめます。例えば4年生から、先ほどのように普通の生徒の4倍の問題量を消化してきた生徒がいたとします。中学3年生終了時点では、4倍×6学年=24で24倍の問題を消化したことになります。下位の生徒とは、さらに4倍で96倍の差!こりゃ、ちょっとやそっとでは太刀打ちできそうにありません。 できる・できないの原因の90%以上は、実は単純にこの部分にあるんです。(もって生まれた理解力の差というものも確かにありますが、学年が進むにつれてその差は小さくなって行きます)成績を上げるということは、問題の消化量の差を埋める練習をすることに尽きます。通常は100の力を必要とするところを、学習塾へ通うと50とか60とかの力で済むようになる。そう思うんですよね。 成績トップの生徒を観察していると、例外なく「速く正しく文章を読む力」と「速く正しく計算する力」が身についています。文章を速く正確に読めるから、問題を解くスピードが速い。計算を速く正しく処理できるから、問題をより多く消化できる。スピードと正確さを武器に量を消化する。量を消化するから基本がしっかりと身について勉強がよくわかる。よくわかるから、自力でどんどん先に進むことができる。言わば「善の循環」が生じているわけですね。
さて、成績が壊滅状態の中学生がいるとします。「中学数学の計算がほとんどできない」「文章を読んでもほとんど理解できない」という具合で、通知表はほぼオール1。そういう生徒が、本当に本気で成績を上げようと思ったなら、やることは一つです。それは何かと言うと、「わからなくなった所まで戻って勉強をし直すこと」それに尽きます。 具体的には、小3・小4まで戻って勉強をし直すのみです。学力低下が深刻になっている中で、私も塾生にそう指示することが増えました。「本気で数学の成績を何とかしようと思っているんなら、小3〜小6のワークを買ってきて全部やんな」「ただし1か月以内にやるんだよ」同じことを、TVドラマのドラゴン桜でもやっていましたね。方法は、それしかないんです。 先月号に書きましたが、ご家庭のご協力がなければ成績向上は不可能という部分はここなんです。塾では、残念ながら小学校のワークを消化している時間はありません。本気で成績を何とかしたいなら、@つまづきはじめた部分まで戻ってやり直す。そして、A分からないことばが出てきたなら必ず辞書を使って調べる。この二つを実践するのみです。
ここしばらく、このNLで釧路の小中学生の学力低下の話ばかりをしているので、ウチの塾はできない子ばかりが通っていると思われちゃいますね(笑)。たしかにそういう子もいますが、バリバリできる生徒もいますよ。私、○○高校××名合格!ってPRするのが嫌いなんですよ。ウチの卒塾生にも、釧路K高校R科や札幌M高校、函館R高校、江別のR高校などの難関高に合格した生徒が多くいます。 でも、彼らが合格したのは僕らの力なんかじゃないんです。本人に能力があって努力したから。ご家族のサポートがあったから。上手にウチの塾を利用したから。それだけのことなんです。面談にお見えになったご父母の方で、祝○○高校合格!の短冊を見て驚かれる方もいらっしゃいますが、偉いのは本人です。ウチは、学習塾としてやるべきことをやっているだけです。 勉強ができないことで劣等感を抱えこんでしまった生徒。そういう生徒に「そっか、わかった!」「なんだ、そういうことなんだ」と言ってもらえると本当に嬉しくなります。ですから、上位校に何名合格したなんてどうでもいいんです。自分の力を出し切って志望校に合格することの方が、はるかに価値があるものだと私は考えます。
それに、またまた暴露しちゃいますが、成績上位の小中学生を指導するのって、実はすご〜く楽なんです。(一部のマニアックな私立中学受験や、高校生の指導はそういうわけにはいきません)ここは重要なのでもう一度。成績上位の小中学生を指導するのって、ものすご〜く楽ちんなんです。指示した作業を速く正確にこなしてくれるので、こんな楽なことはありません♪ ですから、もし学習塾講師や家庭教師で、「学年トップの中学生を指導するのは大変で…」と言う人がいたとしたなら論外ですね。そんなのは、プロでも何でもありません。「まずは、あんたが勉強しなさい!」ってレベルですね。逆に、成績が良くない小中学生の指導って本当に本当に難しいんです。毎日が格闘なんです(笑)。一般に考えられているのと、実は逆なんですね。
学習塾講師という職業を突き詰めて考えて行くと、「人はどうやってものを考えるのか?」という疑問に突き当たるものと思います。学習塾講師の第1段階は、「いかに分かりやすい授業をするか?」というレベルです。思考錯誤とトライ&エラーを繰り返して、「最短ルートでいかに効率よく点数を上げる指導をするか?」という第2段階に進みます。(実際には、このレベルに達していない学習塾講師も多くいます) 自分なりの指導スタイルが確立したなら、次は「人はどうやってものを考えるのか?」という第3段階に至ります。「どうやってやる気を引き出すか?」「いかに子どもたちに自信を持たせるか」というレベルに至ります。第2段階まではテクニック、第3段階はメンタルな部分の研究です。私自身、この先の段階は見えていませんが、「第3段階に達してはじめて、『プロ』の学習塾講師と名乗ってもいいかな?」と思うんですよね。 プロの学習塾講師ならば、どんなに成績が悪い子であっても必ず突破口があること知っているので、冷たくあしらったりさじを投げたりはしません。むしろ、成績が良い生徒よりも悪い生徒の成績向上にこだわり続けるはずです。自分の指導歴や指導力を自慢したり経験の上にあぐらをかいたりもしません。敵(生徒)は強くなり、数も増えています。我々もプロ集団としてもっともっとパワーアップしなくてはなりません。今年も本当にありがとうございます。良いお年をお迎え下さい。 |