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  VOICE   No. 37 

平成 18年 8月

大人が言うウソ

 今月は、「大人が言うウソ」についてです。「これからの子どもは、英語を勉強しなきゃ困るよ」「これからの時代は、英語が話せなければ困るよ」実はこのせりふ、30年も40年も前から言われているんですよね。で、30年・40年前に子どもだった人たち、大人になって困っているでしょうか?いいえ、ぜんぜん困っていませんよね(笑)!

私、中学校までは英語が得意でしたが、その後はまったく進歩せず。でも、大人になって英語が話せなくても困っていません。何度か、英語圏の方と一緒に酒を飲んだことがありますが、ことばがうまく通じなくても(酒が入っていれば)身振り手振りと筆談で何とか通じちゃうものですし、「アルコールは、世界共通の言語だ」などと思っています(爆)!

そもそも、英語が苦手な人が、英語が必要な仕事に就くことはまれですし、必要にせまられてから英語を勉強したって遅くはないんですよね。私の場合、自分の今後の人生に英語は不用ですから、これから英語を勉強するつもりはありません。まぁ、アメリカ人の彼女でもできたら必死で勉強するでしょうけど!(でも、英語ができたら、将来の可能性の幅が広がるのは事実ですよ。学習塾講師の立場から念のため)

勉強ができなくても困らない

 この手の「大人が言うウソ」って、けっこうありますよね。「勉強ができなきゃ、将来困るよ」ってのも同じです。はっきり言います。べつに、勉強ができなくたって困りませんよ。あっ、学習塾講師とあろう者が言っちゃいました!(もちろん、「読み・書き・計算」がきちんとできて、世の中の一般常識をある程度知っているという前提でのお話ですよ。それに、勉強ができれば、将来の可能性が広がるのは事実です)

でも、よく考えてみるとそうですよね。学校の勉強が大の苦手という子が、常に勉強し続けなければならない職業に就くことって、まずありませんもんね。それに、今の時代は大学卒の失業者だってたくさんいるわけですから、「勉強ができないと、将来困るよ」というのは事実ではありません。

勉強はできるけど、いつもブスッとして感じの悪い優等生と、勉強はまったくダメだけど、いつもニコニコして感じのいい劣等生。世の中に出て、上司やお客さんにかわいがられるのはどちらでしょうか?もちろん後者ですよね。勉強ができたって、困る子は困るし、勉強ができなくても、困らない子は困らないんです。勉強ができる・できないと、その人の人間性は別のものですから。

無責任なマスコミ

 話は変わりますが、年金をもらえない(保険料を支払わなかった)高齢者の方って、意外に多いんです。特に自営業の方に。そういう方に話を聞くと、「『将来、年金なんて出ない』ってずっと聞かされてきた」って言うんですよね。私は社会保険労務士として断言しますが、国の年金制度が破綻することはありませんよ!

年金給付率を下げるとか、保険料率や国庫負担率を上げるとかで、まだまだしのぐことができますから。そもそも、公的年金制度が破綻するのなら、国自体が破綻しているはずですし、民間の各種の保険だって、はるか以前に破綻してしまうはずです。マスコミは、年金制度が破綻するだとか、将来年金が出なくなるだとか無責任なことを「昔から」言っていますが、論じているのは老齢年金、つまり高齢者になってもらえる年金だけです。遺族年金や障害年金といった部分に触れていませんし、その制度自体もあまり知られていません。

学生がうらやましいって?

 「大人が言うウソ」と、「困るぞ、困るぞ」と不安をあおるマスコミ。どうも、この二つが子どもたちの自信とやる気を奪っているんじゃないか?最近、そんなことを考えています。ご存知のように日本は、世界でもトップクラスの裕福な(かつ安全な)国です。それなのに、なぜか「生きにくい国」になりつつあります。考えてみれば、ものすごく矛盾していますよね。

最近、私も気付きました。大人たちが、マスコミが、みんなで子どもたちに恐怖と不安を植えつけているんですよね。「勉強ができないと、将来困ることになる」「大学ぐらい出ていないと、仕事がない」「社会人として生きていくのは本当に厳しい」そんなの、みんなウソですよ。

「大人は実に大変だ。気楽な学生がうらやましい」などと言う人に質問です。学生がうらやましいって本気で思うの?社会人は、仕事をしてお金をいただいて、自分の好きなものを買うことができるけれど、学生に戻るとできないんだよ。それでも、本気でうらやましいって思うの?俺は思わないよ。だって、仕事をして自分で稼いだお金でビールを買って飲むのって、すごーく幸せだもん(笑)!

学校向きか世の中向きか

 親が苦しそうに仕事をしていたら、子どもは「仕事とはつらく苦しいものだ」と思うし、親が明るく楽しそうに仕事をしていたなら、子どもは「仕事とは楽しくてやりがいのあるものだ」と思うものです。職業観一つとってみてもそうですが、親や世の中の価値観・思いこみといったものが、子どもたちを追いこんでいる。今の日本って、そういう部分がとても大きいと思うんです。

勉強ができないことで、「自分はどうせダメなんだ」「自分には価値がないんだ」と自暴自棄になっている子どもがいます。でも、「学校の勉強がダメ」⇒「学校に向いていない」という子は、実は「世の中に向いている」ってことなんですよね!おしゃべりばかりしているとか、遊んでばかりいて成績がダメといった子は、世の中に出たらグンとよくなりますよ。いつも楽しいことを考えているのだから、お客さんを喜ばせる才能があるってわけです。

自暴自棄になって横道にそれてしまう子がいますが、そういう子が世の中に出ると、格段によくなる可能性が高いんです。大人が、「お前は学校に向いていないけれど、世の中にとっても向いているよ」と認めてあげて、「働くって、こんなに楽しいことなんだよ」と伝えてあげると、子どもたちは自分の進むべき道を真剣に考えることになるはずです。

恐怖を植えつける大人たち

 私は、諸悪の根源はマスコミ、特にテレビだと思っています。こんなに安全で豊かな国なのに、マスコミは「これでもか!これでもか!」と恐怖と不安を植えつけていますよね。一時期、若者による「オヤジ狩り」なる犯罪が急増しましたが、実は某テレビ番組がその手口を大々的に放送したことがきっかけだったんですよね。17歳の犯罪が増えた理由も同様です。

「景気が悪い」とか言いながら、一方では一流ブランド物なんて飛ぶように売れているんですよね。ものごとには光と陰の部分がありますが、マスコミは、陰の部分だけをことさら強調して不安と恐怖をあおり、光の部分はほとんど取り上げない。おまけに、成功した人にいちゃもんをつけたり足を引っ張ろうとする…。

先日の亀田興毅君の世界戦だって、判定がどうのこうの言ったって、責められるべきは大人たちであって、興毅君は本当に立派な戦いをして、賞賛に値しますよね。何で、素直にほめてあげないの?やれ態度が悪いだの何だの難クセをつけて批判するけれど、あのね、プロ・ボクサーって強くなくちゃダメなの。勝つのが仕事なのね。しゃべり方が生意気だとか、そんなの別にいいの。

そうやって、自分を追いこまなきゃ成り立たない、命をかけた仕事なんだから。北野たけしさんだって、若いころは毒舌で有名で、世間から非難ごうごうだったじゃありませんか?モハメッド・アリだって、とってもやんちゃなパフォーマンスで有名でしたよね。頂点を極めてから精神的な道へ進む人だって、たくさんいるんですよね。

常識は変わるもの

 失礼な日本語ってたくさんありますよね。でも、最近はそういうことばはできるだけ使わないようになってきました。例えば「ボケ老人」。人生の大先輩に対して何たる失礼な…。現在では、認知症ということばが広く使われるようになりました。少し前まであたり前に使っていたことばだって、「誰かに対して失礼にはならないか?」という配慮から、使わなくなったものがたくさんあります。

以前は、例えば老人ホーム(この言い方だって失礼ですよね…)で孫みたいな年齢の職員が、人生の大先輩に幼児ことばで接したり「ちいちいぱっぱ♪」とかってやっていましたが、今だったら大ヒンシュクですよね。よく考えてみれば、今までは気付かなかったけれど、「それはおかしい」「それはやめるべきだ」といったことって、本当にたくさんあります。

個人的には、ペットショップでの犬や猫をケースに入れた陳列販売。あれは絶対にやめるべきだと思っています。欧米では、ああいった販売方法は法律ですでに禁止されているそうですから、遅かれ早かれ、「あれは、犬や猫がかわいそうだから、やめましょう」という結論になると思います。学歴社会も年功序列賃金制・終身雇用制も崩壊しました。「常識」といわれるものも時代と共に変わっていくものだと思います。

増える毒の量

 ニートと呼ばれる若者が増えているのは、大人たちが恐怖と不安を与え続けた結果だと思います。「働くのはつらく苦しい」とか、「できることなら働きたくない」とか、「社会人とはつらいもの」とか、そんなことばかり聞かされ続けてきたなら、そういうものだと信じてしまいます。

若者が悪いとか変だとか言いますが、そうしてしまったのは大人じゃありませんか?夢や希望ではなく、与えられるのは恐怖と不安ばかり…。私教育の現場に立って思うのは、「今も昔も、子どもは変わっていない」ということです。栄養を与えられてすくすく育つべきところを、毒を与えられ続けておかしくなっている。そして、年々その毒の量が増えている。毒とはすなわち、大人たちやマスコミが言うウソ、恐怖や不安、劣等感のこと。そんな風に感じています。(次号へ続く)